7つ真珠の首飾り
「簡単なことだね。陸へあげてしまえば、この真珠の存在を知っている生き物はもう、決して手を出せない」


簡単なこと、だなんて。

この決断がどれだけの勇気を要するものなのか。
そんなこともわからないと思われているのだとしたら、それは非常に遺憾なことだ。


なんて、かしこまって考えてみて、それでもいいかと思った。

ティートはわたしに悩んで欲しくないのだろう。
これまでの日々をただのうつくしい思い出として残したいのだろう。


そのことにふと思い当った瞬間、わたしはもう、口を開かない方がいいかもしれないと思った。


「シズ」


唇の動きを目に留める。
うつくしい顔と真正面から向き合う。もはや一瞬足りとも視線を逸らしてなるものか。

今までで、一番長く見つめ合った。


空間を共有できるのは、あと何分、あと何秒だろう。
この瞬間が終わってしまったその時、彼は海へ、わたしは陸へ帰り、もう、二度と会うことはない――


ティートと自分の違いを強く強く感じた。

それは彼の瞳の青さや、光る髪の色や、勝手に視界にちらつく青緑色をした魚の下半身のせいでもない。

彼のゆるいでくれそうもない、決意を固めさせたもの。

それらを考えると、わたしは彼との違いを感じずにはいられなかった。


人魚と人間、その違いはもちろんのこと、

男と女。

国王と女学生。

死にゆく者と生きる以外の道を知らない者。



どうしたってわたしたちは。

同じ道を歩んでいくことなど、できはしないのだ――

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