ラブトラップ
8.
日曜日。
久々のバンドの練習に、私は少し張り切って、早めにスタジオに入ることにした。

私たちが使うスタジオは、うちのバンドのギタリスト、陽介の実の父親が所有しているものなので、使用料はかからない。
陽介の実のお父さんは、プロのミュージシャンで、仕事をしないときには自由に使っていいと言ってくださっている心の広い方なのだ。


私には、バンドのことだけじゃなくて、ラブトラップのことも気にかかっている。
南が言うには、まず第一段階の「相手に自分の存在を気付かせる」は十分なので、第二段階「相手の印象に強く残る」に移り、そこが終わったら最終段階「好きだと気付かせる(場合によっては、直球勝負で告白することもある)」に入るらしいんだけど――。

どうしたらいいのかしら。

南に言わせれば「密室で音楽を奏でるなんて絶好のチャンスじゃない」って言うんだけど、何がどうチャンスなのか、私にはさっぱり掴めないでいた。


だいたい、それがチャンスって言うならもう、私は何十回とチャンスを逃したことになる。
もちろん、あの頃は、美虎に対して好きだなんて感情、微塵も抱いてなかったんだけれど――。
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