時雨の奏でるレクイエム
ラディウスは、自分がふわりと浮いていたのを知った。
後ろに無造作に結んだ髪が解け、肩にかかっている。
モンスターは消え去り、クルーエルがラディウスの名を呼んでいるのが聴こえた。

「幻獣、か」

自分の存在が変わったことがわかる。
自分の名前はラディウスではない。
リリスだ。
自分に宿っていたリリスは幻獣の力と名前を自分に譲渡し、消えてしまった。

「ラディウス!」

小さなクルーエルが、ラディウスに向かって手を伸ばしている。
ラディウスはクルーエルの目の前まで降りて言った。

「リリスだよ。俺はもう」

クルーエルはラディウスを抱きしめて離れなかった。

「ううん。ラディウスが、人間であることをやめないかぎり、ラディウスはラディウスだよ」

夕日が、ラディウスの銀色の髪を緋色に染める。
ラディウスは、クルーエルの胸に顔をうずめて、力を抜いた。


二人の姿は、一つの緋色の影だった。
二人を祝福するように、夕焼けが紅く燃えた。
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