時雨の奏でるレクイエム
「――……っ!!」

強風に煽られ、クルーエルは目を瞑り、手近なものにしがみついた。
するとそれはクルーエルを抱き寄せるようにした。
おそらく風の能力で王都まで二人を送るつもりなのだろう。
風の冷たさとかすかに感じるぬくもりがなんだか嬉しくて、楽しくてつい笑ってしまう。

「わぁっ!!」

それもつかの間、クルーエルは風から放りだされて悲鳴をあげた。

「……っと」

ラディウスは倒れそうになったクルーエルを支えて、ゆっくり地面に下ろした。
クルーエルはラディウスを見上げて、その顔を見つめた。
ラディウスもあれっという顔をして見つめ返す。
それから、ラディウスは眩しそうに目を細め、クルーエルから離れた。

「綺麗な色だな」

「え?」

「瞳。ずっと白銀だと思っていたが」

「……?」

「翳ると仄かに蒼い。凍った月の雫の色だ」

クルーエルはただぽかんとして地面に座り込んでいた。
ラディウスはクルーエルから視線を外し、どこか遠くを険しい目つきで眺めた。
クルーエルはその視線を追って後ろを見る。
少し低い所に、たくさんの家が。
そして、一番奥に白く輝く夢のような城がそびえ立っていた。
< 67 / 129 >

この作品をシェア

pagetop