時雨の奏でるレクイエム
少年は街のむっとした熱気を浴びて、顔をしかめた。
そして、できるだけ焼けていない道を選んで進む。
当然、街人も、帝国兵もいない。
いや、いるにはいるのだが、それは全て死体だった。
生きているものは全てひ弱なモンスターばかりで(それでも街人を殺すには十分な強さを持っていたが)、人の気配はしない。

「……?」

少年は違和感を感じて立ち止まった。
一つだけ、焼けていない建物がある。
モンスターも、そこを避けているように感じる。
不自然なほど、強力な結界が張られているようだ。

少年は吸い込まれるように、建物のなかへ入っていった。
入らなくては、いけない気がした。

建物の中は、がらんとした空洞だった。
家具も一切なく、木の床とレンガの壁、ガラスの窓しかない。
入ってすぐ気づいた。
この建物に結界が張られているのではない。
この家自体が結界だった。
そして、部屋の奥に、一人の少女が壁に背を預けて眠っていた。
緋色のまったくそろっていない短い髪。
ぼろぼろになり、すすけて汚くなったもともと、真っ白だったと思えるワンピースを着ている。
痩せて、土気色になった肌。
そして、圧倒されるほどの強い魔力。


少年が近づくと、少女が眼を覚ました。
純粋な銀色の瞳が、少年の姿を捉える。

「見つけた……夕焼けの、瞳」

少女はまた瞳を閉じた。不意に、少女の胸元が淡く光り、それが収まったとき、少女から垂れ流しになっていた魔力が消え去った。

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