時雨の奏でるレクイエム
程よく眠くなりオリビンに部屋に送ってもらったとき、既に月は窓から見えなくなっていた。
横には幅のない窓だから、一時もすれば見えなくなるのも当然といえば当然なのだけど。

そしてクルーエルが帰ってきたのを見計らったように、コンコンとノックの音が聞こえた。
ラディウスの部屋とつながっているドアの方だ。

「ラディウス?」

クルーエルはドアを開けるとこちらも室内着に着替えたらしいラディウスがいた。
前に見たのと違うのはそれだけではなく、銀色の髪が伸びている。

「魔法を使ったの?」

「いちいち髪を切るのは面倒だと思わないか?」

ラディウスは質問には応えずため息をついた。
心底嫌そうなため息だった。
さらに今回は金に染め直す必要もあるのでそれも不機嫌の理由だろう。
服が男女共有のタイプのため、ラディウスの性別がいよいよ本格的にわからなくなっている。
そんなことを言ったらまた嫌そうな顔をされるので言わないけど。

「それで、どうしたの?」

「明日、薄緑色のお茶が出てきたらなめる程度にしておけ。眠らされる」

「……なんで?」

「感づかれるんだよ、明日」

「どういうこと?」

「未来を視て来た。記憶の魔法が少し解けて、俺が預言獣であること、それだけがばれる。つまり」

「闇の幻獣王が召喚される可能性が」

「そう。出てくるんだ」

「そっか。明日なんだ、早いね……」

「おそらく、記憶の幻獣と関わりのある人物が焦ったということだろう。自分が召喚しようとしたものが世界を滅ぼしかねない闇の幻獣王だとディランに知れる事を危惧して」

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