教室バロック
だいぶ様子も落ち着いて
だけど
最近入って来た看護士さんが
夜の食事を持って来てくれたスキを狙い
ポケットに入っていた鍵を奪った
真っ先に向かったのは
家でも、学校でも無い ―――
トンネルを抜け、電車が少し揺れて
桜井が橘につかまる
空いた車内ではあったけど
極力小声で、那智が話始めた
「 …佐野の話によれば
その夜、ある場所で
ちょっとした騒ぎがあったんだと
見てたのは、佐野の知り合いっていうか
まあ、携帯しか知らない間柄っていうか
…遊び友達連中? 」
「 ――― おう 」
「 …んで
よく、…が立ってんだよ そこ…
… 最初は、なんかちっこいオカッパが
ウロウロしてんなあって
皆で道に座りながら、
なんとなく見てたらしいんだけど
…… で 」
那智が話あぐねているのが解ると
橘が桜井の、耳を塞ぐ
桜井は不思議そうな顔もせず
黙ってそれに従い、視線は窓の外
夕暮れ色の 銀座のビル群
「 …いい加減、挙動がおかしいから
ある車が入って来た時
そこにダッシュして行ったらしくて
それで、
なるほどって思ったらしいんだけど
… 伊藤もちろん、金持ってないじゃん
兄ちゃん 追い払ってたらしいんだけど
それでちょっと…騒ぎになって
…騒いでたのは
伊藤…だけなんだけどさ 」
「 うん 」
「 かなり人が、遠巻きではあるけど
集まってきちまって
―― 車の中に、
連れ込まれそうになったんだと
んで…
ヤベエんじゃね?ってザワザワしてたら
" ルウ "が来たんだ 」