教室バロック




乗車時刻を知らせるアナウンスがあって



少し足元の危ないミツコの両脇を
那智とオレが支えて階段を降り


少し腰が悪いというおじさんの片腕に
山瀬が手を添え

『舞妓さんに支えて貰うなんて
初めてだなあ』と笑って
オレ達も、ミツコも笑う





ホームにはもう
機関車をイメージしたデザインの
黒に金のラインが入った
寝台列車『はるか』が停まっていて


白線の内側で
ご両親は揃ってオレ達に
低く低く、何度も頭をさげる


比奈はそれをとめ
桜井は泣きじゃくるお母さんの涙を
ハンカチで一生懸命拭いてあげた



空気が一気に抜ける音

ガタンと開いたドア
真新しく光るタラップに足をかけ
ミツコが一度、振り返った






「 ―― ミツコ!!

メールでも、電話でも、
手紙でも何でもいいから
絶対ちょうだいよ?! 」


「 ミツコちゃん!!

体、よくなったら、京都行こう!!
うちおじいちゃんち、料亭だから
ミツコちゃんの大好きなハモ料理
たくさん出してもらうから!! 」



「 うん  みんな ありがとう 」




「 ……もちろん
俺達もご招待だよな?!桜井 」

那智が押して
桜井は

「 え〜… 男の人は〜
おじいちゃん、
倍取りそうな気がするよ〜? 」

橘が「 こづかい貯めるべきかな… 」と
悩み始めて
その場全員、それを聞いて笑った







そして

発車を知らせるベルが鳴り

ミツコが手を振る




その視線は、一度オレ達を見て


なぜか少し、後方に動いて
オレも一緒に振り返ったけど



誰もいないホームに向かって
もう一度ミツコは






「 ありがとう 」と 手を振った













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