gently〜時間をおいかけて〜
「――航…」

ジワリと、目に涙が浮かんできた。

あなたは今、どこにいるの?

あなたは今、何をしているの?

あたたは今、生きているの?

声が聞きたい。

顔が見たい。

あなたの全てが見たい。

そこまで思って、あたしは気づいた。

いつの間にか、あたしは航に恋をしていた。

航を息子としてではなく、男として意識をしていた。

何でこんな時に、自分の気持ちに気づいてしまったのだろう?

おかしな、状況だ。

自嘲的にそんなことを思いながら、あたしは息を吐いた。

空っぽの心に、また冷たい風が吹いた。
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