十字架

Wishful thinking

「渡辺さん…でしたよね。『渡辺 宏明』さん」

「えっ…、あぁ…そうだけど?」
渡辺はいきなりの話に少し動揺し、返事を返した。

返事を返した事で一旦は唇が離れたが、渡辺はもう一度口許を寄せた。

「渡辺さん…?『Tragic History』はご存じですか…?」


秘書の一言に渡辺の眉間は一瞬歪んだ。

「なんですか…?それ?」

渡辺はあくまでもシラを通そうとした。

しかし、秘書には渡辺を逃す事など許さなかった。

許すはずもなかった。

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