さくら木一本道
だが、それから数十分後…
さくらはコントローラーを持ったまま白く固まっていた。
なぜなら、これまでの通算記録は…
龍巳 5勝1敗
さくら 1勝5敗
と、大口をたたいていたくせに散々な結果になってしまったからだ、
どうやら敗因は、家庭用ゲーム機のコントローラーと、ゲーセンのコントローラーは形が違うらしく、慣れないコントローラーでは最終奥義「天王将烈」が出せなかったようだ。
惨めなうえに敗北を期したさくらは、何かブツブツと小言を言っている。
(さくら)「清八が… 私の清八が…」
(勇次)「さ、さくら? 大丈夫か…?」
と、勇次はさくらに話しかけてみるが…
(さくら)「清八が…大丈夫、大丈夫… 清八が…」
(勇次)「ダメだこりゃ…」
悲しみに暮れるさくらとは対照的に、龍巳は満足したような顔で言うのだ。
(龍巳)「いや~ いい勝負だった!! ここまで本気を出したのは久し振りだ!!」
(さくら)「……どこがいい勝負なのよ… こんなボロ敗けで… 私の清八が…」
(龍巳)「さくヤン…俺はさ、銀拳のソフトは持ってるけど、他人と勝負をしたのはこれが初めてなんだ」
(さくら)「?」
(龍巳)「このソフトを持ってる奴も少ないし、勇次も他の奴等も銀拳出来ないしな、だから今日は楽しかった!!」
銀拳は、ゲームセンターがメインの格闘ゲームであり、家庭用ゲーム機となると、どうしてもプレイヤーの数が少なくなってしまう、
だからこそ、ゲーム内のコンピューター対戦ではなく、他人が動かしている生きたキャラクターとの格闘を、龍巳は本気で楽しんでいたのだ。
(さくら)「……」
(龍巳)「今度はさ!! ゲーセンで対戦してみようぜ!! 俺、ゲーセンの銀拳あまりやったことないんだよ!!」
(さくら)「……ふっ…上等よ、ゲーセンでは「天王将烈」でボロボロに打ち崩してやるわ!!」
(龍巳)「お、やる気だなさくヤン!!」
(勇次)「……仲いいなお前ら…」
そのあと勇次とさくらと龍巳の3人は、「プレシテ3」で遊び尽くした。
ゲームが得意なさくらと龍巳に、勇次は全てのゲームで勝つことは出来なかったが、それでも2人と遊ぶ時間が意外に楽しくて、意外に時は過ぎて行った。
そして時間は午後6時、
(龍巳)「……あ、もうこんな時間か… 勇次、俺そろそろ帰るわ」
龍巳は壁に掛けられた時計を見て言うのだ。