さくら木一本道


外は日も暮れ、すっかり暗くなり、あちらこちらで家々の明かりが点き始めている。



(勇次)「俺とした事が… つい時間を忘れてしまった…」



(龍巳)「いいじゃないか、それだけ楽しかったって事だろ?」



(勇次)「ま、まぁな」



確かに、こうやって3人で遊ぶというのは良いものである。

強いて言えば、ゲーム初心者の勇次に対し、二人が全く手を抜いていなかった事に、いささかの不満を感じるが、

さくらも終始機嫌が良かったし、それはそれで良しとすることにした。



(龍巳)「じゃあ、俺は帰るぞ」



(勇次)「おう…って、待て待て待て!!」



勇次はあることに気付き、龍巳を引き止めた。

なぜなら龍巳は、持って来た鞄も持たず、手ぶらで部屋を出ようとしていたのだ、

引き止めるのも当然である。



(龍巳)「何だ勇次?」



(勇次)「ゲーム持って帰れよ!! なに普通に帰ろうとしてんだよ!!」



鞄を持って帰らないということは、当然のことながら持って来たゲームも、大量のソフトも置き去りということだ、

だが、龍巳はあっけらかんとした顔で言うのだ。



(龍巳)「しばらく勇次ん家に置いといてくれ」



(勇次)「いやいや、邪魔だからどうぞ持ち帰ってくれ」



(龍巳)「まあ勇次、そう言わずにさくヤンを見てみろ」



勇次がさくらを見ると、次はどのソフトで遊ぶのか、目を輝かせながら探し迷っているさくらがいた。

子供かお前は、



(勇次)「……」



(龍巳)「あの状況でゲームを持ち帰るなんて、「レディファースト龍巳」の名が廃るぜ」



(勇次)「テメェにいつレディファーストの時があった…」



(龍巳)「頼むよ勇次、さくヤンの気晴らしにもなるだろ?」



自称「レディファースト龍巳」なりの理由があって、ゲームを置いて行くらしいのだか、

手を合わせて頭を下げる龍巳の姿に、どことなく違和感を感じる、まるで、ゲームを押し付けるような素振りではないか、

なにが龍巳をここまでさせるのかは知らないが、まぁ、預かるだけなら問題もないだろう、



(勇次)「……まあ…そうだな、図書館が開いてないときはアイツも暇になるだろうし、かなりのゲーム好きみたいだしな、気晴らしにはなるか…」



(龍巳)「だろ?」



(勇次)「分かった、ありがとな龍巳」



(龍巳)「いいさ、俺はゲームが出来る状況じゃないしな…」



そう言って龍巳は、階段横の窓から外を眺める。



(勇次)「どうしたんだ?」



(龍巳)「いやさ~ 最近暖かくなってきただろ? グランドが使えるようになって野球部の練習試合が多くなってきたんだよ、だからマネージャーと言えど休めなくなってきてさ~…」


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