この涙が枯れるまで

都内の水族館にあっという間に着いた。


『ついたー早く行こ!』


百合は僕の手を握り僕をひっぱる。
そしてそのまま水族館の中に入って行った。


『優君!可愛い~イルカだよー』


百合は、はしゃぎながら僕に笑顔を見せる。

僕はもう忘れていた。
百合の嘘を。


僕もだんだん楽しくなってくる。


『百合これすごくね?』

熱帯魚を指差す。

それらの色が美しかった。
独特な、色合い。
気取って泳ぐ熱帯魚が、うらやましく思えた。



『うん、すごーい』


百合と一緒にいるだけで、とても楽しい。


百合はこの時楽しかったかな?




──…気が付けばもう夕方。



―もうすぐ閉園の時間です。

館内アナウンスが流れる。



『帰ろっか?』


『うん…帰ろっか。』


百合の手を握ったまま歩きだした。


そしたら、『優君待って』
こう言って、百合が突然止まった。


『どうした?』


『写真…撮らない?カメラ持って来たの。』


『写真? いいけど』


『本当?じゃあ撮ろ?』


百合の隣に並ぶ僕。
目の前には、沈みそうな夕陽がいた。


『私の背じゃ優君入らない…』


手を必死に伸ばし、僕達の方にカメラを向ける百合。


『ばーか。お前ちっさいから無理なんだよ。』


『ひどーい』


『これは俺の役目』

僕はそう言って百合からカメラを奪った。


『撮るよ』


『うん』



―パシャ・・・

フラッシュが眩しい。



『ありがと』


『おう、現像したら見せてな?』


『うん!』



僕は百合の笑顔を確認し、手を引いて、
水族館から出て行った。





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