白神
まるで音の無い世界に二人だけでいるように、とても静かだった。
正確には、私の耳が一切の音を遮断していただけなんだと思うけど。
それでも不思議なことに、彼の声しか聞こえなくて、彼の動作しか見えなくて、全てがスローモーションで。
思考もついていかない。
だから、今私は何をされているか、わかるのに時間がかかった。
「なに………。してるの………?」
彼は私を抱きしめていた。
壊れてしまうかと思うくらい強く、そして壊してしまわないよう 慈しむように優しく。
「………君が、とても泣きそうな顔をしていたから………。」
私が泣きそうだった………?
「………泣いているの、あんたのほうじゃない。」
彼は震えていた。
「………バッカじゃないの。なんであんたが泣くのよ………。」
「………僕にもわかんない。」
只、君が泣きそうになってて、胸がとても痛かったんだ。
彼はそう言った。