トレイン


箱根湯本の駅から登山鉄道に乗った。行き先は終点の強羅。リカは小柄で中高と特にスポーツもやってなく、そのせいか他の女性に比べ体力がなかった。長距離の電車移動になると必ず僕の肩に寄りかかり、すやすやと眠ってしまう。去年も車窓から見える景色を一緒に見たくて、僕は自分の肩を揺すったり、リカの頬っぺたを突っついたりして何度も起こそうとしたがダメだった。車内ではほとんど眠りっぱなしなのだ。多分、今年も同じだろう。景色は駅に着いてからでも楽しめるし、リカの寝顔を見ながら箱根の山を登るのも悪くない。そう思っていた。

だが、僕の予想とは裏腹に、リカは眠そうな顔をしながらも、僕の肩に寄りかかることもなく、静かに窓の外を眺めていた。

「去年は寝てばっかだったから分からないだろ。もうすぐ鉄橋があるから写真を撮ろう。すごくいい景色だから」

珍しいこともあるものだ。そう思いながらも、僕は嬉しくなってリカのカバンからデジカメを取り出した。

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