トレイン
リカは付き合い当初から結婚願望の強い女性だった。
『早く結婚したいな』
『アタシたち何歳になったら結婚する?』
『ウエディングドレスは可愛いいのがいいな』
僕はそのたびに同じような答えをリカに返した。
『もう少しお金を貯めて、もう少し二人が大人になったら結婚しよう』
僕は結婚願望が無いわけではなかった。ただ、“結婚“という二文字に、イマイチ現実味が湧かなかった。多分、それは自分に自信がなかったからだと思う。社会に出て日々を生きることで精一杯の自分。金も無ければ、人より秀でた才能があるわけでも無い。
そんな現実の中で、将来の自分とリカとの結婚生活が、どうしても想像できなかった。
それでも、僕が結婚しようと答えていたのは、リカを好きな気持ちは誰にも負けないという思いからだった。そんな若さが僕の唯一の力だった。
でも、そんな答えはリカにとっては、ただはぐらかされているようにしか思えなかったのかもしれない。
「ねえ、ユウト。結婚の話なんだけど、一度考え直してほしいの」