トレイン
喧嘩するほど仲が良いというが、僕はその言葉が嫌いだった。喧嘩なんて所詮エゴとエゴとのぶつかり合だ。喧嘩の理由なんて、後になればくだらないことだったと気づく。そう思っていた僕は、少々腹が立ってもあえて言い返しはせず、早く険悪な時間を終わらせる為にリカの機嫌をとった。仕事の話にしても、やたら真面目過ぎる性格のせいだろうと思い、下手にアドバイスや指摘はせず、泣きべそをかいているリカの頭を撫でて、小さな身体をリカが落ち着くまでただ抱き締めた。それに元々、僕とリカとは同期で役職も同じ。偉そうにアドバイスできるほど僕は仕事ができるわけでもなく、リカに比べれば真面目に仕事に取り組んでいるわけでもなかった。
「ごめん。リカがそんなこと真剣に考えていたなんて気がつかなった。おれも直せる所は直すようにする。結婚もリカのいう通り、もう少し考えよう。でも結婚を白紙にするだけで別れたいと思ってるわけじゃないだろ」
僕は不安になってもう一度確認した。突然リカが自分の手を離れていくような気がして唇が震えていた。今度は長い沈黙があった。
「少し距離を置きたい・・・・・」