渇望-gentle heart-
「良いんですか?」


「当たり前じゃないか。
特に真綾ちゃんはベッピンさんだしよ、ホントこの島が賑やかになったって評判なんだからなぁ。」


俺はまるで自分のことを褒められたように嬉しくなって、真綾と顔を見合わせた。



「つか、ゲンさんすでに酔っ払ってるやんなぁ?」


「酔っ払ってなくても同じような感じだけどね。」


ひそひそと話していると、



「おい、聞こえてんだよ、バカタレ!」


どやされ、今度は声を上げて笑った。


島中が俺達の家族になりました。


だから少し落ち着いたら、血の繋がっている実の兄貴に、手紙でも書いてやろうかと思うんだ。


出所したらいつでも遊びに来いよ、ってさ。


アイツは薄汚いだけの男だと思いながら、むしろ嫌悪の対象だったけれど、でも今は、ずっと幼かった頃の兄弟喧嘩ばっかり思い出しちゃって。


いつの間に歪んだ関係になっていたのかももう、記憶にないけれど、それでも憎むことでは解決しないと、いつも俺の左隣りにいる女が教えてくれたから。



「早く行こうや、ジロー!」


真綾が俺の手を引いた。


走るなって言ってるのに、コイツほど元気の有り余ってるやつなんかいないんじゃないかと、本気で思う。


ゲンさんは上機嫌で俺の肩を抱いた。



「この野郎、お前はこんなに良い彼女がいて、幸せモンだよな。」


「んなこと言って、また奥さんに怒られますよ。」


この人をなだめるのにも慣れたものだ。


一本道を並んで歩きながら、今晩は騒がしい夜になりそうだと、俺は苦笑いばかりを混じらせた。


けれど今、不思議なくらいに毎日が楽しいんだ。

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