青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
ヤバイ、これは殴られる一歩手前だ。
俺を見据えていつでも殴れるようタイミングを見計らっているんだろうな。
とにかく、話題を逸らさなければ。殴ることを一時でも良いから、忘れさせなければ。
「あ、あのーよく俺を見つけられましたね」
「あ゛?!」
一々母音に濁点付けやがって、恐いんだよチクショウ。
でもめげるな俺、やれば俺もデキる子だ!
「お、おお俺って地味じゃないっすか。見つける方が苦労するみたいな? 各学年十クラスあるんですよ?」
「そりゃ探し出すのに普通は苦労するな。テメェみたいなクソ地味な野郎」
クソ地味な野郎。
正論だけど、他人から言われるとヒジョーにムカつく。
「だが荒川庸一絡みだって知れば、案外すんなりと見つかる。あいつと絡む物好きな野郎はそういないからな。絡むとすればチャラけた野郎が殆どだ。
お前みたいな地味な野郎が絡むなんて、相当異例なんだよ」
「そ、それで簡単に見つけ出したと?」
「ああ。人をちっとシメて、テメェのいるクラスと名前も割り出した」
俺のことを調べるために、人をシメちゃったんですか。
すみません。地味な俺のせいでこのお方からシメられた人。今、スッゴイ罪悪感を抱く。
「ちなみに一年ですか?」
「タメだな」
「あーそうですか。タメなんですか。先輩に見えましたよー。いやぁ、俺と違って立派なガタイですね。羨ましいな」
「……話を逸らそうとしてねぇか?」
ヤバイ。
『貴方に思わず尊敬しちゃいますよ、褒め殺し作戦』は、どうも相手に効かないみたいだ。
俺は首を大きく横に振って、取り敢えず否定する。赤髪の不良さまは「そうかそうか」と意地悪い笑みを浮かべてきた。
ヤバイ、これは1発殴られる。絶対殴られる。
痛いの嫌なんだけどなッ、とか思っていたら赤髪の不良さまが拳を振り上げてきた。
俺は咄嗟に、片手に持っていた弁当を空高く放り投げて身構えてしまった。