青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
――ボトッ。
そんな音が辺りに寂しく響いたような気がする。
放り投げた弁当箱は見事に地面に転がった。
だけど弁当が宙に待った際、赤髪の不良さまの頭に弁当の中身が落ちた。落ちてしまった。
嗚呼ッ! 赤髪の不良さまの頭に白飯(ふりかけ付き)が!
嗚呼ッ! 最後に食べようと思っていた真っ赤なタコさんウインナーが頭の上に乗っている! なんて勿体無い!
突然のことに呆然としていた赤髪の不良さまが、我に返ったように俺の胸倉を握り締めて大きく揺すってきた。
「テメェ~~~ッ!」
「ごめんなさい! すみません! 自己防衛が働いてッ」
真っ赤なタコさんウインナーが白飯(ふりかけ付き)と一緒に、赤髪の不良さまの頭の上に乗っている。それを見るだけで笑っちまう!
クッソー踏ん張れ、俺、堪えろ、俺!
どんなに阿呆な光景でも、笑える光景でも、笑ったら最後で最期になるだろ!
極力、赤髪の不良さまの頭は見ないように努力する。
でも一度興味を持ったら気になって気になって、恐る恐る赤髪の不良さまの頭を見たら噴き出しそうになった。
ま、マヌケの他なんでもないって!
「今、笑いやがったな?」
「と、と、とんでもないですっ、笑って……ッ、ないです!」
赤髪の不良さまがカラダを震わせている。
その度に真っ赤なタコさんウインナーが微動。白飯(ふりかけ付き)と一緒に微動。赤髪と真っ赤なタコさんウインナーが微妙にマッチ。
これさ、笑わない方が辛いって。
我慢していたら赤髪の不良さまがキツく胸倉を掴んできた。
息苦しいけど笑いたくて仕方が無い。
必死に我慢していたら、赤髪の不良さまが舌打ちしてきた。
うわっ、今度こそ殴られる!
けど真っ赤なタコさんウインナーが落ちないか気になって危機感が湧かない! 寧ろ、腹抱えて笑い転げたい!
素早く拳が振り上げられた瞬間、俺はやっと危機感が湧いて冷汗が流れた。
次の瞬間からスローモーションだったような気がする。
振り上げられた拳が俺に向かっていると同時に、赤髪の不良さまの頭に凄まじいスピードで缶コーヒーが飛んできた。
その缶コーヒーが赤髪の不良さまの頭にぶつかって、赤髪の不良さまの拳が俺に向かって飛んでくることはなかった。
相当痛かったのか赤髪の不良さまはその場にしゃがみ込み、胸倉を離されて俺は3歩ほどよろけて後退り。
缶コーヒーが飛んできた方角を見れば、やきそばパンを頬張っているヨウの姿。
「何やっているんだ。ケイ」
「いや、何って、喧嘩に巻き込まれた? ……見れば分かるだろ?」
カッケー。
お前、なんでこうやってナイスタイミングで助けてくれるんだよ。
この喧嘩らしきものの元凶がお前だとしても、原因はお前にあるとしても、今のはカッケーよ。
イケメンって何しても格好良く見えるから癪にくるよな。
買い物袋片手にぶら提げて、やきそばパンを食っているヨウは意外そうな顔をして俺を見てきた。
「お前、喧嘩買う奴だったんだな。マジ意外」
「違う! よーくこいつを見ろって!」
「ん? ……こいつ、誰だ? 知らねぇぜ」
俺を此処まで巻き込んでおいて、「知らねぇ」って……お前は何を言っているんだよ。
「ホラァ、一回目は俺がチャリで踏み付けて。二回目はチャリで一緒に逃げたあの不良さん」
「あー思い出した。あの時のマヌケ負け犬不良」
「ゴラァアア! 荒川庸一! この俺を一瞬でも忘れるなんてイイ度胸だな! しかもマヌケだとッ…いてて」
赤髪の不良さまが頭を押さえながら、ヨロヨロと立ち上がる。威勢だけはイイよな。この人。