青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



このまま、ただただドンパチする男には思えない。何か腹の底に隠しているのだと彼は見抜いていたのだ。


「流石は策士不良」


冷笑を浮かべる五十嵐は「怖いか?」自分の女が今か今かと傷付けられる、その瞬間が怖いかと質問を投げ掛ける。


「ッハ」


ヤマトは負けじと鼻を鳴らした。


「たかがセフレを人質に取られただけだ。こっちとしては、かーんなりヨユーねぇな」

「ほぉ、随分正直に答えてくれる。相当女に惚れ込んでるようだな。日賀野大和ともあろう男が。そっちの元セフレさんから女を奪うほど、惚れ込んでいたのか?」


仲間割れをさせたいのか、それとも冷静を欠かしたいのか。 


大きなおおきな揺すりを仕掛けてくる五十嵐に、「残・念」ヤマトは一笑。

ヨウのことを親指で指し、


「こいつが気に食わなかった」


だから無理やり寝取り奪ったのだと皮肉を込めて笑う。

相手の意向などまったく気にせずヤった。冷笑を返すヤマトの、何処と無い切迫した表情に、ヨウは初めて見る顔だと軽く言葉を迷子にさせた。


これは嘘だ。

ヤマトの空言だ。


相手、自分達、そして自分自身に嘘をついて気持ちを隠してしまっている。



“自分が気に食わないから”



確かに彼の理由の中に一理入っているかもしれないが、キザなヤマトのことだからきっと帆奈美の不安を見抜いて居場所を提供したのだ。


一方で彼女のことを好いている。

だから彼女を傍に置いた。恋敵の自分でさえ分かることだというのに、彼は何故気持ちを隠そうとする。


自分に気持ちを知られたくないのだろうか。


とはいえ自分だって鈍ちゃんではない。


彼とは馬が合わなかったにせよ、つるんでいた時期もある。

セフレになっている時点でそれなりの理由があるということは、容易に察する事が出来るのだが。


素直に帆奈美のことを好いていると認められないのだろうか。


それとも……ヨウは、こっそりと聞いてしまったケンとケイの会話を、ケンの言葉を思い出す。


ヤマトは帆奈美のことを想い、自分と後腐れのない関係にしようとしている。彼女の想い人の下にいつでも帰せるように。


嗚呼、大概でこの男も馬鹿だ。


パチン、五十嵐の指を鳴らす音にヨウは我に返る。



「ゲームを盛り上げてやる」



親玉は百円ライターを取り出した。

なにやら好からぬことを目論んでいるようだ。

表情がえげつない。

消化不良にでもなりそうな表情である。


胃も受けつけてくれなさそうだ。


嫌悪ゆえに嘔吐しそうだと思う一方で五十嵐の行動に懸念を抱く。


何をしようとしている。


灯油臭い辺りとライター、もしこの臭いが本当に灯油ならば火の気が顔を出した途端――まさかとは思うが、まさか、五十嵐は。


一歩足を出すヨウとヤマトに、

「おーっと」

動いたら火を点けて床に放るぜ、と五十嵐は細く綻ぶ。

それが一体どういう意味に繋がるのか、ご丁寧に説明をし始めた。


「あれを見な」


顎でしゃくられ、再度二人は帆奈美の方を見やる。


彼女の頭上に注目するよう言われ、頭上に着目。


暗くてよく見えないが彼女の数メートル頭上に、黒い塊らしきものが微動している。


吊るされているのだろうか、あの塊。


微風によって微かに左右に体を動かしている塊の正体は鉄筋の束だという。


相当の本数をロープで括り、彼女の頭上向こうにセッティングされている。


もしもロープが切れたりでもしたら、重量感ある大量の鉄筋は彼女の頭に降り注ぐ。


そしてその支えのロープは天井のSフック状を通して、自分の下まで伸びている。


灯油がたっぷり染み込んだロープに火を点せば、あら不思議。


あっという間にロープは火達磨となり、容易に支えは切れてしまうだろう。


そしたらどうなるか、後は視聴者のご想像どおりだ。



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