青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
軽く息をつく俺は、
「ちょっと自信が無いんだ」
利二に吐露した。
なんっつーかなぁ、案が通ってもこれからも俺はヨウ達とつるみ、健太は日賀野達とつるむ。
あいつと元通りになることを望む一方で、尻込みする俺がいるわけだ。
今までどう努力してきても仲は改善されるわけじゃなく、寧ろ傷付いてばかりだった。
ようやく一つ、二つ、しがらみが消えそうな状況下にはあるんだけど、前のように戻れるか、俺的に不安。
完全に前のように戻れるわけ無い、どこかで諦める俺がいるわけだ。
そりゃ健太のことは大切な友達で、これからも仲良くしていきたい奴だけど……あいつにはあいつの居場所。俺には俺の居場所がある。
元に戻れば、今の居場所を崩すような気がするんだ。
どんなに手を組んで仲良く会話しても、いざという時に結局傷付くんじゃないか。
中学時代の“仲”に執着している俺は結構悪い奴なんじゃないかと思うくらいに躊躇いを覚えている。
「高校と中学は違うよな」
過ごす環境も変われば居場所も変わる。俺等の仲も変わって当然なのかもしれない。
あの頃のように仲が再生できなくて当たり前、なのかもな。
ぼやく俺に向こうは軽く瞠目していたけど、すぐに笑って馬鹿だと額を叩いてくる。
「何だよ」
不貞腐れ気味に額を擦って異議申し立てをする俺に、
「だったら作れば良いさ」
利二は能天気な台詞を吐いた。否、本人はいたって本気みたいだ。微笑を零したまま目尻を和らげてくる。
「まんま元通りなんて、面白くないだろ? 違うか?
お前の言うあの頃の田山と今のお前は違う。違って当然だ。時間は流れるんだから、居場所や考え、見方も変わる。
山田とどう在りたいか、それはお前次第。
だが、お前が望んでいるなら、仲直りすれば良い。
嗚呼、また語弊を口にしてしまったな。仲直りじゃなく、戻れば良いさ。友達に。
べつに完全に元に戻れなくても良いじゃないか。
少しくらい再生に曲がりや歪みがあっても、ちょっとやそっとじゃ関係の基盤は変わらないさ。
過ごす場所が違うから、また傷付き合うかもしれない。
尻込みするお前を見ているとどーも背中を蹴り飛ばしたくなる。
ソレは自分がお前を友だと思っているからだろうな。悔しいよ、お前がそんなんだと。あれほど努力してたくせに、土壇場になってヘタレてどうする。
折角荒川に『舎兄を認めます』と言ったんだ。推している田山がヘタレてもらっちゃ自分の立場がなくなる」
え? お前、いつそんなことを。
瞠目する俺だったけど、「あ」ついつい声を漏らす。
きっとあの時だ。
五十嵐戦を目前に利二が皆と別行動をする際、ヨウにポツッと零したあれ。
ヨウが嬉しそうに笑っていたから何でかなぁ? と思っていたんだけど、そういうことか。利二はヨウのことを……。
「まあ正確には『友達と思っているんで頑張って下さい』と言っただけなんだがな」
ズルッ。
俺は椅子からずっこけそうになった。それ、舎兄を認めるの何処にも掠っていないと思うんだけど。
引き攣り笑いを浮かべる俺に、
「成長しただろ? あの荒川にそう言えたんだから」
利二はおどけ口調ではにかむ。
遠回し遠回しに認めていると言ってやったのだ、鼻高々と言う利二は俺の肩を叩いた。
「今の状況を認めた上で、相手を認めてやれば、きっと上手くいくさ。
自分もそうして、荒川を受け入れられたんだしな。きっと荒川達もそうなんじゃないか。分裂した向こうチームを認めることで、きっと。
完全な元通りを求めるんじゃなく、不完全な元通りを求めたらいいだろ田山。そして不完全な部分は今から補えば良い。お前ならきっとやれるさ」
この状況、きっと乗り越えられるよ。
人の肩を二度叩いた利二は「戻るから」チャイムを耳にして、自分の席に戻る。
呆けて利二の姿を見送った俺だけど、ふっと曖昧に笑みを零してしまう。敵わないな、利二には。いつも精神面的に支えてもらっている。
大喧嘩して、より一層仲良くなったってカンジ――だから利二は自信を持って言ってくれるのかもな。
「次の時間は英語だっけ」
机上に散らばっている数学の教科書を仕舞って、俺は引き出しに突っ込んでいる英語の教科書やノート、ワーク、それから電子辞書を取り出す。
綺麗に揃えて置いた後、机に上半身をのせて窓辺に目を向ける。
ぽっかりと漂う雲と青空は平和の象徴のようだな。
慌しく喧嘩していた日々が遠い夢のよう。
「そういえばヨウ。今日は午後から学校に来ると言っていたな」
きっと、日賀野のところに行ったんだろうな。
あいつはあいつで終わらせるつもりなんだろうな。全部に。
第三者でも、何となく想像できる結末にく苦笑して俺は青空を見つめた。
本当に喧嘩が終わって平和だ。