青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
【某総合病院201号室】
――コンコン「どうぞ」、コンコン「あ?」、コンコン「いい加減に」、バンッ!
「よっ、ご機嫌いかが? 唯一入院組の日賀野大和くん。
そう、今回の喧嘩で唯一頭から血を流して、俺に助けられちまった日賀野くん、お元気? 俺は超元気。マージ愉快過ぎて腹が捩れてきたんだけど。あ、お構いなく。勝手に上がらせてもらうから」
執拗にノックをした挙句、個室の扉を開けてみればあらびっくりド不機嫌不良が寝台の上にいた。
頭に包帯を巻いているキャツはヨウの姿を見るや否や、「帰れ」片眉をつり上げてノット大歓迎してくれるが、ヨウは怪我人の許可無くズカズカ病室に入り、どっかりとスツールに座る。怪我人の言うことなどお構いなしだ。
ドドド不機嫌にランクアップする怪我人に、ニヤニヤと口角をつり上げてヨウは片手を挙げて挨拶。
「そんなに歓迎してくれなくても、用事が済んだら帰るって。おっとその包帯いかすぜ」
ピキッと青筋を立てるヤマトにへらっと笑い、ヨウは足を組んで膝の上で頬杖をつく。
「学校は?」
問い掛けに、
「不良が学校を心配するのか?」
ヨウは能天気に笑った。
鼻で笑うヤマトは、さっさと帰れとオーラで脅してくる。それで屈するヨウではない。
「まあ、いいじゃねえか。見舞いに来てやったんだし。三日後には退院できるんだろ? 大事に至らなくて良かったじゃねえか。
いやぁ、俺が助けてやったおかげだな。体を張って助けてやって良かった。俺はお前の恩人だよな? なー? 今日から“さん付け”させてやってもいいぜ?」
「取り敢えず、一発かまして貴様を病室から放ることにする」
「うわぁお物騒だな」
ヨウはおどけ口調で話していたが、お遊びは此処までだと一変。真顔で向こうチームの頭を見据えた。
「ヤマト。五十嵐との決着はついた。今度こそあいつは俺達の前にはもう姿を現さないと思う。作戦でも実力でも俺等が上回ったからな。
勝利と力がすべてだったあいつのプライドもズタズタだし、あいつについて来る輩もそうはいない筈。五十嵐との対峙は仕舞いだ。きっとな。
ま、断言はできねぇが、あいつが姿を現しても結局は返り討ちにするだろうか大丈夫だろう」
怪我人は相槌を打ち同意した。
「で、どうする? 一応俺等の契約は“五十嵐を倒すまで”だったが、これからまた一から仕切りなおしてみっか?」
苦々しく笑みを零すヨウに、ヤマトは間を置いて一言。
「興ざめしている」
今更本来のゲームを盛り上げる気にはならない。
上体を起こしていたヤマトは力なく寝台に沈みに、頭の後ろで手を組んだ。
何故ならば、決着が付く前に『漁夫の利』作戦が決行され、自分達の決着は水に流されてしまった。
もう一度盛り上げるにはそれなりの歳月と根気、やる気を要するだろう。
「やり合いてぇなら考えるが?」
投げやりな問い掛けに、
「俺的に今更やり合う意味、あんのか疑問を持ってきたんだが」
ヨウは率直な意見を口にする。
「このまま、なあなあにしていても後味が悪い。だからって決着をつける。それも今更、だ」
だってそうではないか。
最初は五十嵐の倒し方でどうこう口論をして仲違いに。
ついには分裂してしまった自分達だが、五十嵐の一件で手を結ぶことができた。
小さな亀裂が次第に大きくなっていったのは、情けないことに裏で手を回していた五十嵐のせい。皆、踊らされていた。
責任転嫁みたいな言い方だが、五十嵐の手回しで二グループはどんどん仲が悪くなった。
最初は分裂して終わると思っていたのに、各々仲間を傷付けられ、頭に血が上ぼり、やり返してやり返されてエンドレス。
高校に進学しても、過激する一方。
ついには本格的に仲間達が傷付いた。現在進行形で傷付いている。
高校で出来た仲間と一緒に小競り合いをしていた自分達。
先に宣戦布告をしたのは荒川チーム、受けたのは日賀野チーム。
決着を付けるまでやり合っても良いが、お互いがお互いに負ける気などしない。
仲間と一緒なら相手を伸せると双方思っているのだ。負けん気の強い奴等ばかりだから。