青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「私、自分が一番可愛い。浅ましい女。だから不安を感じたらすぐに、誰かに構って欲しくて。ヨウも、ヤマトも、傷付けた。二人に甘えていた」
最初からヨウに不安だと正面からぶつかれば良かった。
ウジウジと落ち込んで、いつか気付いてくれるだろうと淡い期待を寄せた。
愚かな判断だった。少しは気持ちを出せば良かった。
それだけできっと、未来は変わっていた。
「ヨウのこと嫌い嫌いきらい、プライドばっかり取る男、罵っていたけど、違うって分かっていた。
自分の非、認めたくなくて貴方に責任、押し付けていた。
私、とても弱かった。今ならヨウに謝れる。ごめんなさい。傷付けた」
果敢なく笑みを浮かべる帆奈美を横目で見ていたヨウだったが。
「悪かったな」
再度詫びを口にし、ぶっきら棒に唇を結ぶ。
「俺、あいつほど女のことを……分かってねぇ奴だから。テメェの不安を分かってやれなかった。言い訳すりゃ、自分のことで手一杯だったんだ。当たり前のように傍にいるって思ってたしな」
ボソボソッと呟けば、
「ヨウ。今日は変」
いつもだったら強気に勝気な態度を取るのに、と帆奈美が一笑してくる。
「変で悪かったな変で。こっちとらぁこれでも緊張しているんだよ」
鼻を鳴らすヨウはブレザーのポケットに手を突っ込み、
「もうスんじゃねえぞ」
そっと彼女に告げてやる。
何が? 問われる前に、ヨウは言葉を上塗りする。好きでもない男に媚びたりキスしたりするんじゃないぞ、と。
「テメェは見た目以上に好意を寄せてる相手に一途だからな……好きなんだろ? ヤマトのこと」
口を噤む彼女に気遣わなくても良いから、とヨウは目尻を下げる
彼の事が好きだから自分の足止め役を買ったり、五十嵐の条件を呑もうとしたりした帆奈美。
きっと彼女はセフレではなく、ヤマトと別の関係を望んでいる筈。
聞かなくとも、彼女を見ていれば分かる。
だって自分はまだ未練がましく彼女を好いているのだから。
自分にとって世界でいっちゃん嫌いな女、でも世界でいっちゃん好きな女なのだ。帆奈美は。
「好きだと言っても大丈夫だろ。あいつは惚れた女を庇うくらいゾッコンなんだ。両手を挙げて喜ぶだろーぜ」
足を組み、ヨウは広場に集まる鳩に目を向けた。
オスがメスをしきりに追いかけている鳩をぼんやり見つめながら、
「これからもあいつとセフレのままならさぁ」
話を続ける。
「俺にもチャンスあるじゃんとか思うだろ? マージ、俺って痛い男。しつけぇ。乙女な俺、どんまい」
「ヨウ……」
「正直にテメェと別れてショックだった俺がいる。
それって、つまりそういう意味ってことだろう? セフレだった頃、テメェにちゃんと言ったこともなかったけどな。一度でも良いから言えていたら……後悔しているよ」
一変して笑顔を浮かべると、
「テメェは汚くない」
彼女の後ろめたい気持ちを摘んでやる。
不安だからとヤマトに付いたことも、縋ったことも、彼とセフレになったことも、汚い行為ではないのだ。
確かに嫉妬心は抱くし怒りだって覚える。
でも、そう仕向けてしまったのは誰でもない自分だ。
お互いに言葉足らずだったから、こんな未来を掴んでしまったのだ。もう繰り返して欲しくない。ヨウは切に思う。
帆奈美のことだ。
ヤマトの優しさに漬け込んでしまっている、自分を手酷く裏切った、その負い目に心苦しさを覚えているのだろう。