青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
――大丈夫、テメェ等なら上手くいくさ。
帆奈美の告白を耳にしていたヨウは苦笑を零し、彼女に人知れず声援を送る。
悔しい反面、彼女に声援を送りたくなるのは、帆奈美の笑顔を自分も望んでいるからだろう。
居場所になりたいと告げる彼女は、ヤマトに重ねて気持ちを告げる。
「ヤマトが好き」と。
「最初はヤマト、支えてくれてたから、優しさに甘えて好きだと思っていた。
でも違うと気付いた。ヤマトが好きだって。不安だから傍に置いてもらっていた。だけどこれからは……ヤマト、好きだから傍にいて良い?」
真ん丸お月さんのような目をして硬直していたヤマトだったが、ふーっと息を吐いて頬を掻く。
「メンドクセェ女だな」
キュッと開けかけのペットボトルの蓋を閉め、ベッドサイドテーブルにそれを放り投げた。
「いつもそうだ、お前はメンドクサイ。世話バッカかけやがる。それに掻き乱される俺がいっちゃんメンドクセェ」
「うん」
「あ゛ー……いいか帆奈美、俺の居場所になったら最後、今度はもう自由にしてやれねぇぞ。
どっかの男を想いやがったら、多分俺はキレる。いやぜってぇキレる。てか嫉妬? ……はぁ、そんな俺ってマジクソメンドクセェ。だがお前に対してはそんな気持ちだ。いいのか?」
うん、帆奈美は花咲く笑顔を作った。
本当に自分のことを好きだと察したのだろう。
ヤマトは彼女の言葉を信じ、撤回は認めないと素っ気なく言い放つ。
それでも幸せそうに笑う彼女が好きと言葉を送ると、
「もう一つ条件だ」
己の感情を隠すように彼は命じた。
「もう……ヒトリで泣くな。裏でこそこそ泣かれてもメンドクセェからな。泣くなら、俺の前で泣け」
「ありがとうヤマト」
帆奈美を直視できなかったのか、ヤマトは手荒に彼女の持っていたビニール袋を掻っ攫う。
照れ隠しなのだろう。
彼女は気付いていないが、ほんのりとヤマトの耳が赤く染まっている。捻くれでも気持ちまでは誤魔化せなかったようだ。
思わず笑いそうになったヨウが、廊下で大笑いしたのはその直後。
「ンだこれは?!」
ヤマトが素っ頓狂な声を上げて、ビニール袋の中身を引っくり返した。
中から出てきたのは『ビーフ・ジャーキー』の束と、犬のポストカード十枚。
その一枚に『元気になるんだワン。じゃないとブッコロしゅん(肉球)』とメッセージ入り。
それを見たヤマトはあの野郎と握り拳を作る。
自分が犬嫌いだと知っていて、嫌がらせの如く犬を連想させるジャーキーを押し付けてくるとは。しかもメッセージ……最悪過ぎるっ!
体を微動させるヤマトの傍で帆奈美がクスクスと笑い、廊下でヨウの大爆笑が聞こえた。
「ゲッ、あの野郎、まさか……!」
ヤマトの表情が強張り、帆奈美が軽く驚き、扉の隙間からひょっこりとヨウが顔を出す。
パーン、指でヤマトを撃ち、ぶりっ子にウィンク。
「デレ顔になっているぜ? ヤマト。恋人は犬っころだと思っていたのになー」
「き、貴様! ブッコロスぞ!」
「ブッコロしゅんだろ?」
大笑いしてヨウは急いで病室から逃げた。
これくらいの意地悪は許されるだろう。こっちはフラれた身分なのだから。
笑声を漏らしながら、ヨウは頭の後ろで腕を組んだ。
さてと、これから学校に行って仲間にでも慰めてもら……ワタルだけには黙っておこう。ネタにされるだろうから。
学校に向かうため、軽い足取りで病院を出た。
フラれたというのに気持ちは澄み切った青空のように晴れ渡っていた。