チャンピオン【完】
自分の立場はわかるので、いい加減兄貴には逆らえない。
「... 何」
それでも嫌な予感はするのだ。
怪しがりつつ自分の部屋の入り口を掴み、顔を半分だけ出した私に、兄貴は言った。
「あのさぁ、ちょっと提案があるのよね♪ 聞いてくれる?」
「嫌」
「あのね、今日の午後は貴丸もトレーニングないし、オフなのよね♪」
「だから?」
「ほら、君たちもっとお互いよく知るべきだと思うんだ♪
デートしておいでよ♪
そしたら詩ちゃんのやる気もでたりしたり?」
「絶対、でない」
野獣とデートなんてゴメンだ。
扉を閉めかけた隙間に、一瞬早く兄貴のスリッパが差し込まれていた。
必死で閉めようとする私とジリジリとした攻防が続いたが、兄貴が先に折れた。
「援助交際だったらどうだ... ?
お兄ちゃんが二人の為に、一万円寄付しようじゃないか」