チャンピオン【完】
私は彼の悪趣味な冗談が全然笑えなかった。
役に立たない奴だ。何しに来たんだか全く不明であった。
了くんは「こんなもんでいいかな?」と言いながら、私の前に座り直した。
十分です、有難う。
「悪い言い方だとは思うけど、たまたま自分の前を歩いてた人の上に看板が落ちてきて死んじゃった... みたいな事故に近いんだと思う。
貴丸さんは居合わせただけで、別に殺しちゃいない。だから、事情聴取くらいはあったかもしれないけど、別に捕まってないでしょ?
プロレスしてたら誰の身にも起こりうることだし、実際この事件をだれも責めたりしなかった」
「じゃあどうしてアメリカ行っちゃったの?」
了くんは、慎重に言葉を選んでいる。
適当なとこばかり言うさっきのイケメンとは大違いだ。
「それは、... 責めないって言っても、誰もこのあと貴丸と試合をしたがらなかったから。
強すぎたんだろうな。
アメプロだと箔がついた扱いだったようだけど、日本人は穢れを嫌うんだなぁ。
ここから日本プロレスはスターも出てこなくて、暗黒の時代を迎える」
了くんの使う難しい言葉は半分も私にはわからない。
でも、事情は呑み込めた。