いばら姫と王子様 ~AfterDays~
 
毎日が慌ただしいながらも、俺は芹霞の面会時間には必ず行っている。


疲れなど、芹霞の無事な姿を見ればすぐ癒される。


我ながら単純だとは思うけれど、迎えてくれるのが愛しい女性であれば、アルコール臭いこの病院も、長年棲まった我が家のような居心地に思えてくる。


一時、芹霞は病室で荒れたが、今は落ち着き心身共に元気だ。


たまに部屋を抜け出してしまうけれど、行き先は判っているから、皆で迎えに行く。


皆、芹霞が好きで仕方が無い。


玲なんかは、コンピューター関係は全て遠坂由香に任せ、警護団の仕事は桜に任せて、有給休暇使って芹霞の担当医になってしまうし、煌は煌でそんな玲に激しく嫉妬したりと、愛情を体現している。


それなのに、芹霞は相変わらずいつも通りだ。


嬉しいような、悲しいような……。


それでも、好きならば些細な変化も判ってしまう。


例えば玲には、今まで以上に素直に身体を預け、恥じらうように見つめ合う時間が増えたし、


例えば煌には、煌が芹霞を意識した途端、伝染したかのように芹霞まで真っ赤になる。



じゃあ俺は――?



何故か芹霞は身を固くして、ぎこちなくなった。



誤解は解いたはずなのに。


何ともいえない不安感ばかりが渦巻いて、煌と玲に言ってしまった。



「芹霞が退院するまで手を出さない」



完全、2人に対しての牽制だ。


2人とも、不承不承頷いた。


判っているさ。


玲はこの病院で2人きりでいたいんだろ。


煌は退院後、神崎家で2人でいたいんだろ。


じゃあ、俺は?


俺は、長く芹霞と2人でいるチャンスがない。


心に留めていた想いは、我儘に膨れあがる。


もう、想いだけでは済まないんだ。


昇華出来るほどの、明確な形が欲しいんだ。


無理矢理でもいいかから。

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