さよならさえも、下手だった
びっくりした…。
姿を見せていないのに、どうしてわかったんだろう。
それとも、これが殺し屋の力?
頬に触れると指先に付いてきたのは赤い液体。
「痛い」だなんて、久しぶりに感じた。
それはもう長年、私には無縁のものだった。
危険が近づくことさえ私には許されなかった。
「俺だって鬼じゃあない。何の理由もなくお前の依頼を邪魔するつもりはないさ」
嘘だ。
さっきのナイフは、本当に私を殺すつもりで投げてきた。
それを避けた瞬間、舐めるようにじっとりとした視線が背中に張り付いていたことはわかっている。
「お前が完璧に依頼を達成してくれると、信じているよ」
彼が去っていったとき、やっとまともに息ができた気がした。