さよならさえも、下手だった
…別に、顔の傷なんてどうってことないのに。
いつも加えられてきた心の傷に比べたら、ずっとマシだった。
頬に添えられた手をそっと取って、微笑んでみせる。
彼の苦しみが和らぐように、彼が気に病むことのないように。
大丈夫よ。
口にできない分、めいいっぱい態度で示した。
夜十がごく自然に私の手を握る。
どこまでだって、行けそうな気がした。
真っ暗闇の中でも怖くなかった。
まるで蛾が炎に焦がれるように、どんな危険な場所でも行けてしまいそうだった。
「寝る場所でも探すか」
夜十はいつもどこで寝ているんだろう。
野宿かな。
だったら私もこれから野宿になるのかな。
ちょっとキャンプみたいで楽しいかも。