さよならさえも、下手だった


そう思いながら歩いていると、不意に夜十が呟いた。


「野宿じゃないから、安心しろ」

…え。
びっくりして夜十の方を振り仰ぐと、

「顔に出てんだよ」


相変わらずの無表情だったけれど、さっきよりもその無表情が優しく見えるのは目の錯覚だろうか。

殺し屋なのに、ね。

何だかおかしくなってしまってくすくす笑うと、彼は不愉快そうに眉をひそめた。

「何だよ」

ごめんなさい、バカにしたわけじゃないの。


ただ、こんなにあたたかな世界を知ったのは初めてだったから、少しだけ涙が出そうで。


泣きたくないから、笑っただけ。


…それだけだよ。



< 20 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop