さよならさえも、下手だった
夜十はそれから何も言わずに私の隣を歩いていた。
さっきみたいにどんどん先に行くんじゃなくて、私が追いつくのを待つみたいにゆっくりと。
「この辺でいいだろ」
立ち止まったのは適当なビジネスホテルの前。
そこの玄関前で謝罪の前払いみたいに、夜十は謝った。
「悪いな」
何が悪いのかはすぐにわかった。
「落ちこぼれだから奮発できるほどの金はねぇんだ」
入った部屋には私と夜十の2人。
そうか、この人と同じ部屋に泊まるのか。
事実を理解したのはだいぶ遅い時だった。
どうしてか、不快感や恐怖はまったくなかった。
それは私の投げやりな性格のせいかもしれない。
だってそうしないと今まで生きることなんて不可能だったから。
あんな檻の中で平然としていられる方がおかしかった。