さよならさえも、下手だった
ふらふらと頼りない足取りで家を出ると、そこには依頼をしてきた男が立っていた。
「殺してくれたのか」
その瞳には涙が浮かんでいて、俺は心の中で首を傾げる。
殺してくれといったのはそっちだろう?
不思議そうにしている俺に気づき、男は目じりを拭って力なく微笑んだ。
「殺してほしかったんだ」
「それならどうして、」
言い切る前に、男は空を仰いで呟いた。
「このまま生きていても、父さんは幸せではなかったから」
その言葉は、俺には理解不能だった。
だって俺が殺す人々はみんな、殺されそうになると命乞いをする。
床に頭を擦り付けてでも、助けてくれと叫ぶ。
ある者は金を積み、ある者は宝を与え、ある者は家族をも差し出した。
そうまでするほど、命は大切なんだと思っていた。
「生きる」ということより、「命」が自分の手の中にあるということこそが、重要なんだと。