さよならさえも、下手だった


けれど男の人はまったくそれを恐れる様子がない。

それどころか、どこか満足そうな笑顔で呟く。


「…俺の、父親だよ」


夜十は不思議そうな顔で、本当に殺していいのか訊いていた。
でも私には父親を殺したい男の人の気持ちが少しわかってしまう気がした。

それが何だか嫌で、自分が怖い。

私が依頼したわけでも私が殺しに行くわけでもないのに、まるで犯罪者になった気分だった。


だけど私は次の瞬間にその共感がまったくお門違いのものであったことを知る。



「殺し方は任せるよ。ただ…できるだけ一瞬で殺してほしい」

その言葉が意味するもの。
その瞳の陰りが意味するもの。

この人はきっと、本気で父親を殺したいだなんて思っていない。





< 41 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop