さよならさえも、下手だった
狂気も憎悪も無い中で父親を殺してくれと依頼する。
それはこの人の父親が、そうしなければならないほど危険な状態にあるということ。
自然の摂理に背く終末だとしても、それを依頼するほど切羽詰まった状況にあるということ。
――ごめんなさい。
心の中で何度も謝った。
ごめんなさい。
勝手に自分の胸中と重ね合わせて共感してしまった自分が情けない。
あの人は私みたいに暗い感情を持っていたわけじゃないのに、なんてことを。
どうしようもなく自分が醜く思えて消えてしまいたくなって、私は早々にホテルの部屋に戻った。
独りでいることより、こんな自分が夜十の側にいることの方が嫌だった。
怖いよ、夜十。
お願いだから、早く私を殺して。
じゃないと私は壊れてしまう。
だから早く…。