さよならさえも、下手だった


頬に何かが飛び散る。

そっと手を当てればそれはぬるりと生々しい感触がして、何秒か後に血だとわかった。
現実味の無い、瞬間。


でも、それこそが現実だった。




「いやあああああ……っ!!」


10年近く出していなかった声はガラガラに掠れていて聞くに堪えないものだった。

だけど今はそんなことを言っている場合じゃなかった。



「夜十」

情けない声。
これは一体、誰の声?

私は自分のこんな声、知らない。
孤児院でも家でも、こんな声出したことなかった。
こんなに苦しくなったことはなかった。


地面に膝をついてうずくまった彼が、私を見て目を見開く。


「声…」

「夜十。夜十。夜十」

幾度となく口に出す彼の名。

なんて愛しい。




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