さよならさえも、下手だった


涙目になっている私を見下ろして、刹那が嗤う。

「馬鹿馬鹿しい」

「どうして。何が馬鹿馬鹿しいっていうの」

精一杯睨みつけると、彼は眉ひとつ動かさずに私に一歩近づいた。

何をするのかと思えば無表情のまま、うずくまっている夜十の傷口を踏みつける。


「ぐ、あ…っ」

「やめて!!」

あわてて夜十の前に出て両手を広げ、彼を庇う。
この人に反抗するのが怖くて、体中が抵抗していた。
全身が重い。


「こいつは裏切り者だ。任務を遂行すると言いながらそれができなかった。
裏切り者には罰を与えるだけだ」

「違う…。違うわ」

「何が違う。言ってみろ」

夜十がしたことは確かに組織にとっての裏切りかもしれない。
でも、彼がしたことは罰を与えられるようなことじゃない。


「彼は人間として生きただけ」

これまでの過ちに気付いただけ。

ただそれだけのこと。


< 88 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop