さよならさえも、下手だった
涙目になっている私を見下ろして、刹那が嗤う。
「馬鹿馬鹿しい」
「どうして。何が馬鹿馬鹿しいっていうの」
精一杯睨みつけると、彼は眉ひとつ動かさずに私に一歩近づいた。
何をするのかと思えば無表情のまま、うずくまっている夜十の傷口を踏みつける。
「ぐ、あ…っ」
「やめて!!」
あわてて夜十の前に出て両手を広げ、彼を庇う。
この人に反抗するのが怖くて、体中が抵抗していた。
全身が重い。
「こいつは裏切り者だ。任務を遂行すると言いながらそれができなかった。
裏切り者には罰を与えるだけだ」
「違う…。違うわ」
「何が違う。言ってみろ」
夜十がしたことは確かに組織にとっての裏切りかもしれない。
でも、彼がしたことは罰を与えられるようなことじゃない。
「彼は人間として生きただけ」
これまでの過ちに気付いただけ。
ただそれだけのこと。