君が教えてくれたこと
「先生、そろそろ学校に戻るけど、北山はどうする」
「ここだったら、通りに出ればバスで帰れますから、もう少し居ます」

「そうか、解った。じゃあ、あと頼んだぞ」
高山先生の背中に、僕は軽く頭を下げた。
高山先生が帰ってから、お母さんは、由梨の小さい頃の話を僕に沢山聞かせてくれた。
由梨は恥ずかしがって、顔を赤くしていた。
病室に時計が無かった為、面会時間の終わりが近いことに気付いたのは、お母さんが腕時計を確認した時だった。
「あら、もうこんな時間」

「僕、帰ります」

「今日は、本当にありがとね」

「こちらこそ。遅くまで、すみませんでした」
お母さんに、軽く礼をすると、由梨は笑顔で答えた。
「またね」

「うん、ありがとう」
表情も、いつもの由梨に戻っていた。

僕は、お母さんにもう一度礼をして、病室を出た。
もう、救急の入口しか開いていなかった。
そのことを僕は知らずに、少し迷って病院を出た。

「優ちゃん!」
車から、僕を呼ぶ声が聞こえた。
「お母さん」
由梨のお母さんだった。
「送るから、乗って」

「いいえ、帰れますから」

「遠慮しないで」

「はい。すいません。お邪魔します」
僕は、由梨のお母さんが運転する車に乗った。
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