君が教えてくれたこと
由梨の親と二人きり、緊張は隠せなかった。
「由梨とは、いつから?」

「二年の終わりくらいからです」

「どこが好きになったの?」
「えっ、なんかこういうの恥ずかしいですね」
「由梨はね、小さい頃からあまり甘えない子だったの。泣いたこともそんなに無い子でね。強がりというかなんというか、だから今でもきっと、嫌なことは我慢して、溜め込んでしまうの」
「僕の前でもそうです」
「あら、そうなのね。あの子、お父さんが大好きでね。幼稚園の頃、ピアノの発表会があって、お父さん、仕事で観に来れなかったの。そしたら、泣いてね。あの時くらいね、帰って来たお父さんの膝の上に座って甘えてたのは」
「そうですか」
「優ちゃんが、初めてのボーイフレンドよ。どんな人なんだろう、あの子が好きになる人はって、ずっと気になってた」

僕は少し息を吐くと、

「どうでしたか?僕で、良かったですか?」と聞いた。

少しの間が空いて、僕に微笑みながらこう言った。
「どうか、由梨のこと、宜しくお願いしますね」

「はい」
「あの子も大人になったのね」
もうすぐ、家に着く。
行きは遠く感じたのに、帰りはすごく近く感じた。
「ここでいいかしら?」

「はい、ありがとうございました」

「いいえ」

「あの、明日も行っていいですか」

「うん。傍に居てあげて」
車が見えなくなるまで、僕は降りた場所を動かなかった。

その日の夜、由梨からメールがあった。
…起きてる?

…病院だろ。メールしていいの?

…だって、眠れないんだもん。

…見つからない様にしろよ。

…うん。

朝方まで、メールをしていた。

気付いた時には、メールの文章が途中のままの携帯を手にしっかり握り締め、眠ってしまっていた様だ。
その日、僕は、学校を遅刻して行った。

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