君が教えてくれたこと
高山先生も僕が由梨と付き合っていることを知っていた為、理由を聞いて来たが、こっちが聞きたいくらいだった。

~お客様のお掛けになった番号は、電波の届かない所にあるか、電源が入っていない為~

もう、何度このガイダンスを聞いただろう。

ここまで連絡が繋がらないと、逆に腹が立って来る。
何本のバスを乗り遅らせただろうか、学校に何か連絡があるのではないか、すぐ戻れる様に、近くに居たかった。

「北山!」
高山先生の車が、バス停の前で止まった。
「よかった!気付いて、渡辺くんのお母さんから学校に連絡があった。朝、急に胸を押さえて倒れたらしい」
その時の僕は、事態を受け止めるのが早かった。

・・・

「ずっと、ずっとね、内緒にしてた訳じゃないんだけど」

「なに」

「私、産まれた時から心臓が弱くてね」

・・・

そして、凄く冷静だった。
「心臓・・、病院は?!」

「あぁ、今から行くんだ!一緒に行かないか」
僕は、助手席に乗った。

冷静だったのに、心臓の鳴る音が、もの凄く聞こえて来る。

こういう時、どうして人は最悪な状況を浮かべてしまうのか・・

車の中は、エンジン音も聞こえないくらい、とても静かだった。

・・大丈夫。大丈夫。
心の中で叫び続けていた。

病院までの道のりが、凄く遠くに感じる。
カーラジオから流れた曲が妙に心に響き、僕は高山先生の隣で、一人泣いていた。
信号を曲がると、大きな病院が見えて来た。
「病院」

「あれだ、あの病院だ!」
改装工事をしている大きな病院を高山先生は指した。
裏口へと車を走らせる。
駐車場に車を止め、僕は高山先生の後を、小走りでついて行った。
「北山!203号室だそうだ」

「先生、こっち!」
201、202、203・・

近づくに連れて、また自分の心臓の音が、聞こえて来た。

203号室・・
病室の入口で立ち止まり、僕は大きく深呼吸をした。

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