トリップ
数ヶ月前だろうか、知らない日本人から間違い電話が来た。
最初は鬱陶しいと思ったが、つい依頼人に聞く時の「あとお名前も」を言葉にしてしまい、あとで「しまった」と思う。
相手は相当不信感がないのか、簡単に名前を教えた。聞こえてきたのは「キャプテン」と言う言葉。偽名なのかな、とも考える。
彼女は私に気を遣ったのか、最初はゆっくりと喋ってくれる。気を遣われたのは本当に久しぶりなので、またつい気が緩んで会話を進めてしまった。
危険な仕事をする者が何度も気を緩ませてどうする、と思うが、結局途中で切る事ができなかった。
途中、彼女が中国語で話してきたので、本当に久しく親近感を覚える。
電話を切ってから銃弾を放ったばかりの銃をしまっている途中、不覚にも「また話したい。願わくば会いたい」などと考えてしまう。
ばかっ。
自分に言い聞かせて、次に残っていた悪徳男の始末をしに漫画喫茶に行った時、たまたま自動ドアに挟まった(なんで挟まったんだろう?)私を助けたのがその間違い電話の相手であるキャプテンだ。
小さい事以来の楽しさが、寂しさを埋めていくような気持ちだ。
時々過ぎる、私から離れていった友達の顔が浮かんで、そのたびにキャプテンに会いたくなった。
放れていった人間のほとんどは、こんな理由だ。
『男相手だと喧嘩っ早いから』
だから何なのよ、と思いはするが、分かる気もする。
要するに、引いちゃったんだよね。