トリップ
リクは少年と10メートルほどの距離をおき、少年の蹴ったボールを蹴り返してやる。
力を込めなかったせいか、少年のすぐ前でボールが止まった。
受け止めて蹴る、それを6回ほど繰り返した所で、リクは少年の方を向いた。
「悠一介人?」
「婦婦等。ママヲ待ッテル。」
「・・・そうか。」
何気に安心したような顔になり、またボールを蹴り返した。
10分たっただろうか、母親らしき女性がこちらに走ってきた。
「婦婦!」
ママと言ったのだろう、少年が女性の元に駆け寄って行った。
そして、リクの方を向いて手を振る。
「再冗(さようなら)!謝謝!アリガト、オニチャン!」
「再冗。オニチャンではなくてお兄ちゃんだ。」
間違った言葉を直させるように言ったリクの顔は、学校の時よりもずっと緩やかで、優しげな表情だった。
親子が去って行った後で、リクは冷たい顔に戻り、こちらを向いて言った。
「こそこそしてないで・・・早く出てこればいいだろう。」
気付いてたのか。
ゆっくりとエリカが出てくると、リクは見てたのか?といいたげにこちらを見る。
しかし、彼が何も言わず沈黙が続いたため、エリカが何とか話そうと話題を出した。
「先輩って・・・中国語詳しいんですね・・・。」
「い・・・。・・・そうだ。」
否定文を肯定文に変えたような口調は、何故かとても引っかかる言葉だった。