気付いてよ
なんだか気まずくて、俺は口を開いた。
「そういえばさ、俺今日後輩の幸奈ちゃんって子に告られてさ、付き合うことんなったわ。」
こんなことが言いたかったんじゃないことは確かなのに。
口を突いて出た言葉はもう取り消せない。
「…ふーん。そっか。今度は好きになれるといいね。」
抑揚のない声で奏が言った。
その時、奏の家から恵美子さんの声がした。
「奏ー。携帯なってるわよー。奏ー?」
「はーい。今行くー。」
そう言った奏は俺の方を向いて、言った。
「ごめん。また今度ね。」
そう言ってそそくさと部屋の中に入った。
「ちょ、お、おい!」
咄嗟に伸ばした俺の手は空しく宙を切っただけだった。