傷だらけのヴィーナス
“彼女”。
そう呼ばれるのは初めてだから、慣れなくてなんだかくすぐったい。
「主任がいいなら、お供します……」
私は、小さな声でそう答えた。
『うん。じゃあ、13時に迎えに行くから』
―――電話が切れてからも、私は呆然としていた。
社会人になってから休日に誰かと会うなんて、初めてかもしれない。
私は飛び上がるように立ち上がり、クローゼットを勢いよく開けた。
「なに着ていけばいいの?」
なるべく肌を見せないような服しか持っていないため、スカートとかショートパンツとか、今時の服をあまり持ち合わせていなかった。
それから一晩、私はなぜだか必死に服の組み合わせを考えていた。