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「先輩の足のサイズ、いくつでしたっけ?

 俺ので良ければ、長靴が……」


 おお、靴があるのか。

 だったら、何でも構わない。

 僕は、武蔵川の大きくて、ぶかぶかの長靴を履くと、元気よく立ちあがった。


「さあ、行こうぜ、武蔵川さんっ!

 オリヱちゃんを探しに!」


 僕の言葉に、ちょっと首をかしげながらも。

「判りました!」

 って返す武蔵川に。

 僕は、ココロの中で舌を出す。

 バレて無い。バレて無い……らしい。

 人間は、なんて単純な生き物なんだろう……!

 武蔵川っていう、コイツに『外』まで……いいや。

 あわよくば、オリヱの目の前まで、案内させてやる!

 研究所に『入る』ためには、通行証の提示や。

 指紋だの、網膜だのを認識しないと開かないらしい、厳重な通路も。

 『大勢で出る』ならだいぶ緩い。

 面倒な手続きは、武蔵川や、シックス・ナイン捜索に走る他の職員が、やってくれたから楽だった。

 けれども。

 最後のエレベータを降りて出た、玄関ロビーのガラス越しに、研究所の『外』を見たとき。

 目の前に広がる初めての風景に、僕は、思わず足を、止めた。



「なんだ……この世界は……!」



 そう。

 僕の目の前は、不可思議な『白』と『黒』の世界だったんだ。

 研究所の中も、基本は白で僕にはとても馴染みの、落ち着きのある色だけど。

 僕が外の世界を知るために使った映像資料では、もっといろんな色が溢れているはずだったのに。

 僕が、現実に見た初めての『外』は。

 日が暮れた空は黒く、外灯に照らされた地面は全て、白だった。

 しかも、空中には、ご丁寧にも、白く輝く電子パルスみたいな、キレイなモノが。

 灯に照らされて,きらきらと光り。

 強い風に煽られて、ぐるぐると渦を巻いていた。


「なんだ、この世界、なんて大げさな。

 どうやら、風が出て、吹雪になったようです。

 俺は、ヘリを出して来ますから……って、先輩?」


 




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