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 僕は、武蔵川の訝しげな声色なんて、聞いちゃ、いなかった。

 ふらふらと、あまりにキレイな雪に誘われるように、ガラス窓がついている扉に手をかけると、一気に引き開けた。

 途端に、ぶわっと風が吹き込んで、一緒に、白いものも、部屋の中に入り。

 ……見かけとは裏腹の、その冷たさに驚いた。


「うわっ! 寒っ! 冷て!

 何だ!? この自然現象は!」


 心底驚いて、思わず叫んだ声に、さすがの武蔵川も、眉間にシワを寄せて言った。


「雪、なんて。ここでは、珍しくも何ともないじゃないですか」


 明らかに、不審そうな武蔵川の声に、僕は、思わずぎく、とカラダを堅くした。


「そういえば,長靴……!

 先輩、この前の雪かきの時に。

 水虫を飼っていそうな俺には、絶対借りない、とかって言ってたはずなのに!

 何で、履く気になったんですか?」


 ……知るか、そんなモノ!

 と、思っても,実際に言えるわけが無く。

 黙った僕を武蔵川が、追い詰めた。


「それに、先輩は、俺のことを武蔵川『さん』なんて、呼びません。

 大体、名字か、名前の呼び捨てで……」

「……」

「あんたは、先輩じゃ……久谷博士なんかじゃない!

 もしかして、お前自身が、シックス・ナインじゃ無いのか!?」


 うぁ、バレたっ!


 そう感じて、すぐ。

 僕は、そのまま、もう一度扉を開けると。

 吹雪とやらが吹き荒れる、暗い『外』に出て走りだした。

 とたん。


 ずぼっ!


 なんて音と、妙な感触に、雪が、股下近くまで迫り、足を取られた。

 追って来た、武蔵川に捕まる……!

 と、思った瞬間。

 武蔵川も、絡みついた雪に転がされ。

 降ったばかりの雪が、とても厄介なシロモノだと、すごく、思った。
 



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