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 降りしきる雪の中を。

 やけにしっかりとした足取りで、来たヒトがいた。

 背に、リュックサックを背負い。

 足に、とげとげのついた靴を履いている所を見ると、本格的に登山をする人間のようだった。

 そいつが、岩の上に寝転ぶ僕を見て、驚く声を出した。


「ちょっ……っ!

 なんで、ここにヒトが居るの……!」


 声を聞けば、女性のようだった、が。


「あなた、雪女……じゃないわよね?」


 ……おいおい。

 女、と言われて、僕は平均的な男性が言うような言葉を、憮然と出した。


「……男だし」


「うぁ、しゃべった! 生きてる!

 あなた! 大丈夫!?」


 そういいながら、彼女は、半分凍った雪をかき分け、僕に近づいて来た。

 その雪を踏みしめるざくざくという音や。

 彼女の登山用の装備が,カチャカチャと鳴る音が,やけに耳障りで、僕は顔をしかめた。


「大丈夫。ほっといてくれ」


 そう。

 夜が明けてしまえば、僕が逃げて来た意味もなく。

 オリヱと手に手を取って出勤して来るはずの久谷に、莫迦にされるより。

 雪の中に、埋まってしまいたかった。

 そんな僕に、彼女は、莫迦ねっ! と叫んだ。

 そして、自分のリュックサックの中から、簡易ソリを引き出し、組み立てると。

 動けないでいる僕を、手際よく乗せて……唸った。


「あなた、山を莫迦にしてない?

 なんて装備で、冬山に来てるのよ!?

 真夏のハイキングだって、そんな格好でここを登ろうなんて考えるヒトは,居ないわよ!」


「そんなこと言ったって……」


 ……僕は,知らない。


 黙った僕をどんな風に思ったのか。

 彼女は、鼻を鳴らして言った。

「とにかく!

 放ってったら、死ぬから、移動するわよ?

 ここら辺りは、山頂付近での遭難や、滑落(かつらく)したヒトが集まって来やすくて、緊急用の山小屋があるの」


「……え? でも……」


「何か、文句ある?

 言っておくけど、嫌でも連れて行くからね!?

 この状況でヒトが生きてるなんて、珍しいんだから!」
 
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