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「だから、さ。桜……」


 僕は、ただ。

 寒そうな、桜を暖めたいだけの、自分のココロの内を伝えようと、身乗り出せば。

 桜は、反射的に身を引いて……それからゆっくり立ち上がり……僕に近づくと。

 今にも泣きそうな顔をして……笑った。

「いいわ……そんなにシたいなら、させて、あげる」

「……桜」

 違うんだ、と続けたかった僕の声は。

 桜のくちづけに奪われた。

「黙って……シン」

 桜は言って、僕にキスをしたまま、自分の服を自分で脱いだ。

「わたし、本当は……ここに……死にに……来たの」

「え?」

「黙って。

 だから、わたしのカラダ……あなたの好きにして、良いから。

 もし、あの川岸でシンに出会わなかったら。

 そして、今、この山小屋の中で……雪の中に閉じ込められてなかったら……

 わたしは、もう、とっくに、死んで……たの」


「桜……なんで」


 そんなことを、言うんだ。

 良くは、判らないけれど自ら死を選ぶなんて……それは。

 生きているモノが、一番恐ろしい、と思っているコトなんじゃないのだろうか?

 更にか細く感じる桜に触れながら、驚き、戸惑っている僕に、彼女は、いっそ、淡々と話を紡ぐ。


「わたしの好きだったヒト……同じ山岳警備隊にいたんだけれど。

 ここで救助活動中に、自分が遭難して……帰らないの……二重遭難って言うやつね」

 以来、桜は、必死に彼を探してた。

 捜査本部が解散しても、なお、そいつの手がかりを探すべく。

 捜索者が自分、たった一人になっても、頑張ったけれど。

 事故から三年が経過てもなお。

 遺体さえも上がらず、休日も探してる生活に疲れ切ってしまったらしい。


「……」


 真実を知って、言葉の出ない僕に、桜は改めて口づけた。


「わたしには、もう、いらないカラダだから……シンに、あげる……」


 そう言って、桜は、全ての服を脱ぎ、生まれたままの姿になると。

 キスをやめて、今まで、僕の寝ていたベッドにもぐりこんだ。

「来て、シン。

 わたしを、抱いて……暖めて……」




 

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