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「莫迦なヤツって、笑えた?」


「もう! 違うわよ!

 雪の中に居る、シンが、今までに、見たこと無いほど、キレイで……その。

 ああ……雪の妖精ってのが、本当に居たんだ、って思っちゃったのよ!

 そんなヒトが命を落としたら、人類の宝の損失よね」


「ソンシツ、なんて、おおげさな」


 僕の言葉に、だんだん恥ずかしくなったのか。

 桜は、頬を薄く赤くした。

 ……だから、開口一番、僕を見るなり『雪女』呼ばわりしたのか。

 そう思って、呆れながら。

 それでも、僕の身の内から、くすくすと湧き上がって来るのは。


「……なあに?

 わたしは、真面目に言ってるのに、笑うわけ?」


 と改めて怒る桜に、僕は、クビを振った。


「いや。だってさ。

 アンドロイドの存在は否定しても、妖精を信じるなんて、可笑しくて」


「悪かったわね!

 子供みたいで!」


 もはや、桜の顔は、真っ赤だったけども。

 照れてるのか。

 それとも、怒っているのか。

 良くは、判らないけれども……僕はそんな桜が可愛い、と思った。

 守りたい、と思った。

 どうせ無理にでも食べさせるつもりらしい、なら。

 僕も桜のために何かしたかった。


「じゃあ、桜がもう、莫迦なコトを考えず。

 ……山を下りても死なないって約束してくれたなら。

 僕も食べても良いかな」


 そう言った僕を、桜はまじまじと見た。


「わたしに『あのひと』を忘れろっていうの?」


「忘れなくてもいいから、思いつめるな、って言ってるんだ。

 ……目の前に、良い男がいるんだろ?」


 僕の言葉に桜は、ふふっと笑って言った。


「でも、あなたには、好きな人、いるんでしょう?」


 ……ああ。

 大好きな、オリヱ。

 でも、彼女のことを『好き』って言う感覚は。

 桜を目の前にして、よく考えれば。

 愛しい、と思うのとは少し違うような気がした。

 オリヱ相手の『初めて』を、プログラムがあるのに、一瞬、躊躇したワケはきっと。

 自信が無かったからじゃない。
 
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