69
 放っておくと、ロクなコトを考えない武蔵川の手を引いて。

 僕はとっとと、この施設で一番偉いヒトの居室に案内して貰うと。

 中にいるヒトを確認して、自然と笑顔になった。

 眉間に皺が寄る寸前まで、眉を寄せ。

 いかにも、冷たく、厳しそうな表情が似合うヒトだったけれど。

 そんなの関係ないし。

 だって、ほら。

 僕の顔を見た途端。

 驚いたように目を見開き。

 がたん、と椅子を鳴らして、立ちあがる。

「……それで……それで。

 このアンドロイドの個体名は、なんと言うんでしたっけ?」

 その、震える声に、武蔵川は気付かずに、僕の紹介をした。

「彼の名前はR-2-D-70。

 有機アンドロイドのプロトタイプ(試作品)で、まだ一般には発表、販売はされていません。

 政府が発表を決めるまで、あなたの他には、彼がアンドロイドだというコトを伏せてこの施設で実習をお願いしたいのです。

 それに伴い、彼の適当な呼び名である、名前と名字を決めていただきたいのですが……」


「あ、タンマ!

 名字は、どうでもいいですが、名前だけ、僕自身に決めさせてもらいたいです」


「セブンティ! お前は、また!」


 人間同士の話に割り込めば、武蔵川が不機嫌そうに、僕の言葉を遮った。

 でも、そんなの完全無視で、僕は笑って主張する。


「Rから始まる名前だと、長すぎるし、人間ぽくないので。

 セブンティの前と後ろの文字を取って、セイと呼んでもらえれば、良いです」


「……!」


 僕の言葉に、そのヒトは、まるで叫ぶのをこらえるように自分の口を手で押さえた。

「……なんで、そんなコト……

 九谷さんだって、忘れてるのに……」

 ようやく言った、まるで、かすれるほどの小さな声に、僕は返事をする。


「それは、もちろん。

 僕の頭脳のウチの大半。

 特に記憶(メモリー)に関する部分が、前機種69オリジナルのモノをそのまま、引き継いでいるから、じゃないですか?」


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